神に最も近づいたアーティスト
シンガーソングライターの概念を壊した存在
思えば「音の壁に頼らない音楽」の深みを初めて教えてくれた作品がコレだった。
ジェフ・バックリーはそれまでに抱いていたシンガーソングライターの印象を大きく覆してくれた。だって、聴いたことのないコード進行に、女性のように繊細な声、弾き語りの域を超えた独創的なギタープレイ。
ジェフ・バックリーの基本的な情報だけ整理しておこう。
アメリカのカリフォルニア州出身の1966年11月17日生まれ。父親は同じくシンガーソングライターのティム・バックリー。1997年5月29日、ミシシッピ川で溺死。生前のオリジナルアルバムは「Grace」の一作のみ。
わけわかんないけどなんか凄い
その「Grace」を初めて聴いた時の印象は「わけわからんけどなんか凄い」。
そんな印象を持つときは大抵名盤、という法則を彼のおかげで知った。
ジェフは自分が聴いたことのない音楽から影響を受けていることが明らかだった。育った年代が違うから当たり前だけど、彼には自分とは異なる世界が見えているようだった。
そして曲の長さにも衝撃を受けた。7分以上の曲がザラにある。一曲一曲が重さが半端ない(だからこそ「Last Goodbye」の軽やかさが際立つのよね)。
普通、というかわたしの場合だけかもしれないが、曲が長い作品は聴く回数が少なくなる傾向にある。集中力を要するし、まとまった時間がとれないと通して聴けない。
しかしこの「Grace」は違った。曲が長かろうがテンポが遅かろうが、ジェフの神がかった声と芸術的なメロディに触れたくて毎日繰り返し聴いた。
ニーナ・シモンになりたかったジェフ
ジェフの死後、彼が好んで聴いていたというニーナ・シモンを聴いた。メロディや声の揺らぎ方に大きな影響を受けていることがわかった。
もしかしてジェフはニーナ・シモンになりたかったのでは…と思うほどだった。ニーナの真似をして女性のキーで歌っていたことが彼のスタイルに繋がったのではないだろうか。いや絶対そう。
そしてギタープレイも独創的。変則チューニングを駆使したアルペジオはU2のジ・エッジクラスの発明といっても良いくらい。
ロック史上に残るハイトーンボイス
「Mojo Pin」の自由で厳かな曲調は、初めて聴いたらまさに「なんじゃこれ」状態に陥るんだろうけど、繰り返し聴くことによってその独創的な型が見えてくる。というか気になって自然と繰り返し聴きたくなってまうから大丈夫。
「Grace」は緊迫感のあるアルペジオやスパニッシュギターっぽいアレンジ、後半につれて激しさを増す演奏にゾクゾクする。一番の聴きどころはジェフのハイトーンボイス。クライマックスの高音はロック史上に残る名演だと思う。
彼の楽曲で最も有名なのが「Hallelujah」でしょう。レナード・コーエンのカバーだが、まったくもっての新解釈。今ではこちらのほうが決定版となりました。というか、そもそも原曲がそこまで有名ではなかったはず。選曲のチョイスと曲の本質を掴んで再構築したセンスがエグい。
フォーキーなゴスペル「Lover,You Have Come Over」
そして誰がなんと言おうとジェフ・バックリーの最高傑作が「Lover, You Should Have Come Over」。こちらは過去の記事で紹介しているのでよかったらご覧ください。
この曲のポイントは芸術性と大衆性の理想的なバランスだと思う。ポップなフォークソングとして聴くこともできるし、神に捧げるための厳かな音楽として捉えることもできる。
圧巻のクライマックスは「Grace」と双璧をなすほどの高揚感をもたらしてくれる。
こんな長いアルバムが人生で最も聴いた作品の一つになること自体が驚きだ。少しの忍耐があればあなたの一生に大きな喜びをもたらしてくれるはず。
聴いてみてや!
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