from「Geography」(2018)
ロッキンボーイズ vs オシャレボーイズ再び
いつもの休日のようにオレはオシャレな洋服を求めてオシャレなセレクトショップへ足を運んだ。表参道は初夏の陽気に包まれ、ブルーボトルコーヒーの売れ行きもアイスにシフトしているようだ。
某セレクトショップの店員とはもう軽口を交わす仲で、店に入るなり目で挨拶をした。「New Arrival 」のコーナーを一通りチェックした後、今後のトレンドの方向性について店長と少し議論をする。
わたしのお気に入りのデザイナーの新作が思いのほか売れ行き好調らしく、すでにサイズの一部が欠け始めている。奇抜なデザインの中にも気品と王道感を決して失わない、彼の洋服は昔から好きだったが、ここへきてようやく日本でも評価され始めたようで、純粋に嬉しかった。
さて、レディースの新作もチェックしたことだし、そろそろ次の店に移動しようか…と思ったちょうどその時、店内のBGMがゆったりとした三拍子を刻み始めた。
わたしは足を止め、いや、自然に足が止まり、そのサウンドに耳を奪われた。深みと余裕のあるエレクトリックギターの調べがリズムに加わると、店内の空気を一瞬でムーディに染める。そして人生のまるでワビサビを経験したかのような達観したさりげないボーカルが曲の印象を決定づける。
オレは焦った。だってロッキンボーイズ代表としてオシャレボーイズの聖地表参道へのコネクションを地道に築き上げてきたにもかかわらず、店長に「え、この曲知らないの?ヤバくね?」って言われたらマズいやん。それはアカンやん。
「あーこれね。ハイハイ。この曲良いよねぇ」という顔を全力でしながらスマホを取り出し、メールチェックをするフリをしながら音楽認識アプリを起動した。
Tom Misch 「Movie」。ま、まさかウソだろ。これがあのトム・ミッシュだと…噂では聴いていた。感度の高いオシャレボーイズの中では数年前から話題になり、次に来るオシャレアーティストとして名が高かった。
だって…だって彼1995年生まれやで…何このムーディな空気感。このギターとボーカル。何十年にも及ぶ血の滲む努力の結果やっと手に入るニュアンスちゃうんか。
これはあかん。これをオシャレボーイズだけのものにしておくのはもったいない。オシャレミュージックで片付けたらアカン。音楽に対する姿勢といいサウンドへのこだわりといいこれはむしろロッキンボーイズの範疇のアーティストやな。
いやー今までなんとなくは聴いていたけど、2018年にリリースされた「Geography」は、オシャレな雰囲気だけじゃなく、ちゃんと芯のあるメロディを味わえる素晴らしいアルバムどす。
というわけで君たちロッキンボーイズもチェックしとかなあかんアーティストやっちゅーことや!ほなまたな!
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