from 「HITNRUN Phase Two」(2017)
ソーメィニアック
2016年4月21日、プリンスが逝った。突然。前触れといえば死の6日前にインフルエンザの症状で飛行機を緊急着陸させて病院にかかったというニュースだった。誰もまさかこんなことになるとは予想できなかっただろう。プリンスに多大な影響を与えたジェームス・ブラウンは70代になってもツアーを続けていたこともあり、プリンスもきっとそうなるだろうと思い込んでいた。パールジャムのエディ・ヴェダーはこう語った。「もし、80、85になってもプレイしている人がいるとしたら、俺は、それはプリンスだと思っていた。だから、本当にショックだ」「プリンスは多分、俺らが見た中で最高のギタリストだ」
プリンスは異色のスターだった。マイケルと人気を二分した、とよく報道されているが、その表現には違和感がある。確かにルーツとする音楽はファンクという点で共通しているかもしれない。しかし、マイケルはポップを突き詰めて創造性が人類のアルティメット形態へ進化したパターンだが、プリンスは基本変態、どこまでも変態。ときどき殿下の機嫌が良いときに大衆の近くまで降りて来てスーパーポップな音楽を聴かせていただく、みたいなイメージなのだ。ソーメィニアックな存在なのよ。
実は何を隠そう、わたしはこれまでプリンスのアルバムを何枚聴いても心の底から感動したことはなかった。しかし、その独創性には惹かれるものがあり、どこか諦めきれない気持ちを引きずっていたのだ。そんな中、突如訪れた訃報。何気なくApple Music内を検索すると、当時の彼の最新作でありラスト作「HITNRUN Phase Two」が配信されていた。
最近はまったく彼をフォローしていなかったわたし。最近はどんな音楽をやっていたのだろうと聴いてみたところ…衝撃を受けた。そこにあったのは往年のファンク&ソウルミュージック。黒人音楽のオイシイ部分を凝縮したような濃さとサービス精神に溢れているではないか。宇宙の果てまで行ってしまうプリンスではなく、地上の民にもわかる易しさも兼ね備えている。それに加え、音がイイ。構成が生楽器中心であることもあり、輪郭がクッキリしていて生々しく迫力がある。これこそが今のAll The Young Dudesに伝えるべきサウンドとその場で確信。
名曲揃いの傑作の中で何よりぶっ飛ばされたのが「Xtralovable 」。ファンキーなグルーヴ、ポップなカッティングギター、キレ味鋭いブラス、滑らかな歌メロ、名曲過ぎワロタwwwwマーク・ロンソンも真っ青のオールドスクールっぷり。スキのない完璧な作品とはこのことか。 2013年にreloaded バージョンとしてシングルリリースされた楽曲だが、もともとは80年代の未発表曲だったやと!?アカン、これはアカンでぇ。こんな名曲を未発表にしていたなんて。ボブ・ディランといい、なんで天才は自分の書いた曲の良し悪しを判断できないのか。今後お蔵入りにするときはオレに相談してからにしてほしいわ。
とにかくこのアルバムは楽曲の質が高い。どれも親しみやすさを兼ね備えている。彼の死後、過去の楽曲があらためてチャートインしたのも興味深いが、聴くべきはコレだと主張したい。
そして同時に膨大に眠っているであろう未発表音源のリリースを期待する。超多作家のプリンスのことだ、その量もマイケルの比ではないだろう。あの驚異の4枚組未発表曲集「Crystal Ball」のことを思い出すべし。今後、まるで生きているかのようなペースでリリースされ、彼の作品の全貌を明らかにしてほしい。