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Jeff Buckley「Lover, You Should ‘ve Come Over 」

90s

from「Grace」(1994)

ほんの少しの忍耐

先日、職場の飲み会で好きな音楽の話になった。音楽マニアが集う会ではないため、特に洋楽の話で盛り上がったわけでもないのだが、一つ驚いたのが音楽の聴き方だった。

みんなどうやって音楽を聴いているのかというと、CDでもサブスクリプションのサービスを利用するでもなく、YouTubeで聴く、という人が多かった。

試しに聴くという目的ではなく、自分が好きなアーティストですらYouTubeでしか聴いていないようなのだ。「え、だってYouTubeならタダで聴けるやん」と、学生でもない社会人がそういう考えなのだ。

「音楽は無料で聴くもの」という認識を持つ人が増えていることを改めて実感した。それを自分の子どもと一緒に楽しんでいるということだから、子どもも将来同じ認識を持つだろう。

そうなると、音楽と真正面から向き合う人が世の中から少なくなる。無料であるがゆえに、金を支払った分の元を取ろうという意識も働かないし、データ通信の容量制限がある場合、最初にピンとこなかったものを流しておく余裕もない。よって、短くてわかりやすい音楽が好まれる傾向は強まっていくのかもしれない。

音楽とテクノロジーは常に一体なので、それが悪いこととは言えないが、テクノロジーの進化で自由度が広がるのではなく、逆に聴き方を狭めてしまうのであればもったいない。

世の中には向き合うのに気力を消耗するが、一旦理解してしまえば怒涛の感動が押し寄せる音楽というものがある。気軽に聴けるポップスとは正反対の、言葉に重みがあって一音一音に情念が込められている音楽。大抵テンポが遅く、曲も長い。今の時代には絶対ウケないだろう。

わたしが初めてジェフ・バックリーのCDを購入し聴き始めた頃は、複雑な構成でメロディも暗いため理解ができなくて、曲も長いし正直楽しめていなかった。ただ、「何かこれまでに聴いていた音楽と違う」という違和感が残り、気になるから聴く、を繰り返していた。

二週間ほど聴き続けると、その音楽の本質部分が身に染み付いてきて、だいたい自分における評価が定まるものである。これをわたしは二週間の法則と呼んでいる。

ジェフ・バックリーもその法則により、当初の印象から一転、わたしの人生における最重要級のアーティストと昇格した。

彼が生前に残した唯一のアルバム「Grace」に収録された「Lover, You Should ‘ve Come Over」は優しく、さりげなく神々しい。フォークとゴスペルが融合したような親しみやすいメロディとジェフの高音ボーカルに世界中の音楽ファンが虜になった。6分を超す大作で、ゆったりとした穏やかな曲調であり、クライマックスをめがけ徐々に壮大さを増す展開。シンガーソングライターの可能性を広げたロック史上屈指の名曲であると断言したい。

ジェフがどんな気持ちで作ったのか、狙っていたことは何だったかは未だにわからないが、この曲が人生の本質的な部分の感情を表現していることは間違いない。雨の日に部屋で流すとどうだろう、人生の儚さやそれ故の美しさに気付かされるのだ(いやホントに)。

この楽曲を初めてYouTubeで聴く人はどう感じるだろうか。クライマックスまでじっと聴いていられるだろうか。永遠に語り継がれるべき名曲だが、ほんの少しの忍耐も嫌う時代にどう受けて止められるかが気がかりだ。

当サイトで紹介している楽曲はどれも同じだが、「Lover, You Should ‘ve Come Over」はわたしの音楽人生をかけて推薦したい。メロディが身体に染み込むまでちょっとガマンしてでも聴いてみてほしい。

Apple Music : Jeff Buckley「Lover,You Should ‘ve Come Over」

コメント

  1. […] Jeff Buckley「Lover, You Should ‘ve Come Over 」先日、職場の飲み会で好きな音楽の… […]

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