from「Tim」(2019)
最後まで天才だった男
アヴィーチーの最終作を聴いていた。”筋肉質なEDM”といういつものアヴィーチーらしさは発揮されているが、全体的に暗い影に覆われているような印象を受ける。
そのせいもあってクオリティは高いが派手なキラーチューン的なものは存在しない。プロモーション上はColdplayのクリス・マーティンが歌う「Heaven」がそれにあたるとも言える。ただ個人的には予定調和の域を超えていないと感じる。
トップを飾る「Peace Of Mind」は今までのアヴィーチーにはなかったシリアスなテイストで、めちゃくちゃクールだし、「Bad Reputation」のサビは鉄板のコード進行で腰砕けにされる(音の数じゃなくて構成で盛り上がるのがほんと上手い)。「Ain’t A Thing」は誰がどう聴いても泣けるバラード。
…やっぱ名盤だなこれ。地味だと思ったけど聴けば聴くほどメロディのポテンシャルに気付く。
というわけで「Tim」は“隠れた名曲”と呼びたくなるような楽曲が揃ったアルバムだが、その中でも一際心に残るのが「Freak」である。
コレを初めて聴いた時には日本人にはお馴染みのあのメロディが流れてきて驚いた。何を隠そう坂本九の「上を向いて歩こう」がサンプリングされているのだ(みんな知っとるわ)。
制作過程の動画によると、曲の骨格部分が完成したものの、何かが欠けていると感じていた。そこにこのメロディがうまくハマったようなのだ。「上を向いて歩こう」がアヴィーチーの琴線に触れたという事実がとても嬉しい。
その部分を差し引いても、この曲は気取ろうとしていなくて、内面をさらけ出していてとても好感が持てる。パーティーチューンでもなく、淡々と感情を綴っているテンションが凄く良い。
サビでビートを抜いちゃうからね。そして盛り上がるかーと思ったらあの泣き笑い的な独特の哀愁があるメロディ(上を向いて歩こう)が来るからね。
ここが他のDJとは違うのよ。ワビサビを分かってたのよアヴィーチーは。無駄に音を膨張させないし、アコースティックな楽器を好んで取り入れてるし、絶妙にセンチメンタルなメロディ生むし、めちゃくちゃ繊細なハート持っていたはず。
聴けば聴くほどもったいない。なぜ彼は死ななければいけなかったのか。クリス・コーネルもそうだし、いっつも同じこと考えるけど、天才であるが故に繊細で、お酒やドラッグに頼らざるを得なかったということなのか。
ただ彼らの偉大な作品に触れられる術があることに感謝するしかない。
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