from iTunes Festival London 2011
わたしはいつも考えている。歌心とは何なのか。「歌心がある」と表現したくなる曲の共通点を探すと、2点あるという結論に至った。
1つは、繊細な部分まで表現が行き届いていること。単に歌がうまいっていうだけではなくてね。歌唱力があっても、大げさでわざとらしい表現になっていては歌心があるとはいえない。「エエ声やでぇぇええええ!!」と歌いあげるだけの勘違いシンガーをよくみかけるが、その人は音楽が好きなんじゃなくて、エエ声出てる自分が好きなんでしょうね!その曲を愛していて、快感ポイントをカラダでわかっていたら、わざとらしい表現になんかなるわけがない。よって、歌い手がその曲を細部まで感覚で理解していることが必要なのだ。
2つ目は、楽曲そのものに繊細な表現を受け入れる器があるかどうかである。名シンガーがどれだけ駄曲に心を込めても駄曲は駄曲である。奥行きかつ深みのある楽曲でなければ繊細な表現のしようがない。イデアのメロディは人間の根源にある感情そのものに沿った形をしているため、必然的に繊細な表現を必要とするのだ。
この2つの条件を満たしたときに初めて歌心があると言えるのではないか。このどちらかが欠けても歌心は生まれないである。
次に、我々が歌心を必要とするときはどんなときか。そりゃあもう恋に落ちたとき、そして失恋したとき。これに決まってるっしょ。そんじょそこらの大人たちにはわかんねぇだろうなぁ。失恋してロックに救われる。恋愛もスペックで判断するようになったヤツらにゃあわかんねぇ、ロッキンボーイズのピュアソウルってもんよ。
で、アデルの「I Can’t Make You Love Me」がとんでもない歌心を響かせている。カントリーシンガーのボニー・レイットの楽曲をカバーしたアデル。iTunes Festival Londonのライブ音源しかなくて恐縮だが、これがアデル史上最強の歌心である。上記2つの条件を満たした文句なしの名唱。
細かいニュアンスにこだわり、本家ボニー・レイットのバージョンよりもさらに深掘りした表現に仕上がっていると感じる(本家の靄がかかったアレンジやジャジーなピアノ、素直な歌い方もスゲーいい)。アデルの歌声は迫力のあるR&B声がベースなんだけど、おばさんくささがそこまで強くないのがイイ。ソフトな表現のときの声が繊細で胸を打たれる。
楽曲自体は様々なアーティストにカバーされているため、すでにお墨付きではあるが、はかないイントロとさりげない抑揚が諦めの感情を見事に表した傑作。これを聴くと、一瞬で人生を振り返っりたくなってしまう。勝手に色んな記憶が蘇るのだ。そんなマジックを持った楽曲がこの世にいくつあるだろうか。
さて、今日も人生を振り返ろう。
Apple Music:「I Can’t Make You Love Me」
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