from「Omni」(2010)
ストイックな音楽求道者
知的なロックへの憧れってあるよね。メガネかけた理工学部の大学院生みたいなヤツらが野暮ったいVネックのニットに白衣を羽織りながら研究室で音楽を作ってるみたいなバンドいてほしいやん?
そういうバンドの音楽的特徴って感情が爆発しないことだと思うのよ。演奏はあくまで理知的でシャウトなんかしない。冷静に淡々と演奏していると見せかけて実は所々にエモーションが滲みでて、音楽自体は研究に基づいて美しい配列で構成されている。各パートは単純なことをしているのにそれが絡み合った瞬間に意味をなす。
まあでもそんなバンドおらんやろなぁ。おってもデスキャブフォーキューティかアメリカンフットボールくらいやろなぁ。まあおるはずないわ。さて帰ろ帰ろ。え?おるのん?いやいや、そんなバンドが都合よく出てくるわけないやんええ加減にしいや自分…………ほんまや。おったわ。
Minus the Bearは信頼の置けるバンドである。セルアウトするわけでもなく自分たちの音楽を追求する求道者。かといってマニアックになりすぎず、適度なポップ感覚と音楽を構築していく喜び、そしてロックのダイナミズムがバランスよく共存しているのだ。
テクニックはめちゃくちゃあるのに前面には出さない禁欲っぷりがにじみ出てる。わたしが特に好きなのがボーカルの声質で、優しく太く誠実に歌いあげるスタイルが嬉しい。
しかし、禁欲的な音楽スタイルのせいか、キラーチューンになりうる決めてに欠けるところもある。いい曲はたくさんあるのだが、まずはコレを聴いとけばオーケー!っていうのがない。そこがまた奥ゆかしくていじらしい。
あえてあげるとしたら「My Time」。キーボードのキュートなリフが幾重にも折り重なるアンサンブルが気持ちいい。そこに憂いのあるボーカルが加わる。すんげぇシンプルな曲なのに、細かいフレーズへのこだわりが随所に見えたり。ロッキンボーイズならわかるはず。
ロックバンドにも関わらず、複数のキーボードがメインになる曲をアルバム一曲目に持ってくる柔軟さよ(ギターの人が退屈そうやんけと思ったら続く「Summer Angel」ではギター中心のアレンジに。これがまたカッコええ曲)。
センチメンタルになりすぎないメロディセンスも素敵で、この辺はデスキャブにも通ずるところがあるけど、Minus the Bearはさらに音に躍動感があるのよね。ストイックな音楽求道者の中でもポップかつロックで貴重なバンドやと思いますよ。是非聴いておくれやす。
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